体験会に来たお母さんが、練習を見ながらふと黙ることがあります。
視線の先にいるのは、たいてい高校生の練習生か、指導に来ている大人です。正確に言うと、その人の耳を見ています。
しばらくして、遠慮がちに聞かれます。
「あの……耳って、やっぱりああなるんですか」
この質問は、ケガの心配と並んで一番多いです。そして、はっきり答えている記事が意外とありません。経験者向けの話ばかりで、親御さんに向けて書かれたものが少ない。
なので、今日は正直に書きます。結論から言うと、小学生のうちに耳がつぶれることは、ほぼありません。理由も、なる場合の条件も、なったときの対処も、順番に説明します。
先に結論:小学生の練習量では、まずなりません
20年以上ちびっこレスリングを見てきて、小学生で耳が変形した子は、記憶にある限りごく少数です。
理由は単純で、練習量と、組む強さが足りないからです。
耳が変形するのは、耳が繰り返し強くこすれたり、圧迫されたりした結果です。毎日のように長時間組み合って、頭と頭をつけて押し合う。それが何年も続いて、はじめて起きます。
小学生の練習は、週に数回、1回1〜2時間。しかも中身の多くは、マット運動、受け身、動きづくりです。頭をつけてゴリゴリ押し合う時間は、実はそう長くありません。
だから、体験会で見た大人の耳を、そのままお子さんの未来だと思わなくて大丈夫です。あれは高校や大学で、毎日何時間もやった結果です。
そもそも、耳はなぜつぶれるのか
仕組みを知っておくと、必要以上に怖がらずに済みます。
耳の外側は、薄い皮膚の下にすぐ軟骨があります。その皮膚と軟骨のあいだに、こすれや打撲がきっかけで血や体液が溜まることがあります。これが耳介血腫(じかいけっしゅ)、いわゆる耳が腫れた状態です。
腫れた直後は、耳が赤黒くふくらんで、ぷよぷよします。
問題はここからです。この状態を放っておくと、中身が固まって、そのまま軟骨が変形して定着します。これがいわゆる「つぶれた耳」「ギョーザ耳」です。

つまり、つぶれるかどうかは、腫れたときにどう対応したかで決まります。格闘技をやったから自動的にああなる、という話ではありません。
「痛いですか」への正直な答え
これもよく聞かれます。
腫れているときは、痛いです。ズキズキするというより、押すと痛い、寝返りで枕が当たると痛い、という感じです。本人はけっこう気にします。
ただし、固まってしまったあとは、痛みはほとんどありません。見た目が変わるだけです。
だから「痛みに耐えて我慢していたら、いつのまにか変形していた」ではなく、「腫れた数日のうちに病院へ行かなかったから、そのまま固まった」というのが実際の順番です。
つぶれた耳は元に戻せます。ただし時間制限があります
ここが、この記事で一番伝えたいところです。
耳が腫れたら、早めに耳鼻科に行ってください。溜まったものを抜いて、圧迫して固定すれば、多くの場合そのまま元に戻ります。
反対に、日数が経ってしまうと、抜いても戻らなくなります。タイムリミットがあるということです。
具体的な日数や処置は、状態によって変わります。そこは私が言うことではないので、はっきり書いておきます。腫れに気づいたら、様子を見ずに耳鼻科へ。それだけ覚えて帰ってください。
- 耳が赤くふくらんでいる
- 触るとぶよぶよする
- 押すと痛がる
このどれかがあったら、練習を休ませて受診で構いません。うちのクラブでも、そう伝えています。
絶対にやってはいけないこと
昔は、こういうことを平気でやっていました。
自分で針を刺して抜く。指で潰す。放置して「勲章だ」と言う。
全部やめてください。
耳は感染すると厄介な場所です。清潔でない処置は、変形より面倒なことになります。「勲章」については後で書きますが、少なくとも小学生の耳でやる話ではありません。
防ぐ方法はあります。ただし、うちでは強制していません
耳を守る道具があります。イヤーガード(ヘッドギア)です。耳の部分をカップで覆う、あごひもで留めるタイプの防具です。
これを着けていれば、耳のトラブルはかなり減ります。

ではなぜ全員に強制しないのか。理由は二つあります。
一つは、小学生ではそもそも必要になる場面が少ないこと。前に書いたとおり、この年代の練習量では耳は腫れません。
もう一つは、着けたがらない子がいることです。暑い、聞こえにくい、ずれる。無理に着けさせて練習が嫌いになるくらいなら、必要になった時期に着ければいい、と考えています。
ただし、一度でも腫れた子には着けさせます。一度腫れた耳は、二度目が起きやすいからです。ここだけは例外なしにしています。
あと、イヤーガード(ヘッドギア)をつけると、首投げにかかりやすくなるので注意して下さい。
心配な方は、最初から着けても何の問題もありません。むしろ、迷っているなら着けたほうがいいです。
それでも、耳を理由にやめさせないでほしい
最後に、コーチとしての本音を書きます。
耳が心配で入会を迷う方は、毎年います。気持ちはよく分かります。特に女の子の保護者からは、はっきり聞かれます。
でも、小学生のうちに耳が変形する確率と、その心配でレスリングをやらせない機会損失を比べたら、私は後者のほうが大きいと思っています。
やらせてみて、中学、高校と続いて、本人が本気で強くなりたいと言い出したとき。そのときに、耳のことを本人と一緒に考えればいい。それは6歳で決める話ではありません。
そして、もし将来つぶれたとしても、それはその子が選んで積み上げた時間の形です。親が先回りして怖がる必要はないと思います。
まとめ:耳の話は、正しく知れば怖くありません
長くなったので、要点だけ並べます。
- 小学生の練習量では、耳はまずつぶれません
- つぶれるのは、腫れたあとに放置して固まったときです
- 腫れたら、様子を見ずに耳鼻科へ。早ければ戻ります
- 自分で潰す、針を刺すは絶対にしない
- 一度腫れた子には、イヤーガードを着けさせる
- 心配なら、最初から着けても構いません
体験会でお母さんが黙る気持ちは、毎回よく分かります。ただ、耳の話は「なるかならないか」ではなく、「なったときにどうするか」を知っているかどうかの話です。
知っていれば、そんなに怖いものではありません。


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