その質問をされるタイミングは、だいたい決まっています。
大会が終わって、片付けが済んで、みんなが帰り始めた頃。荷物をまとめている私のところへ、お母さんかお父さんが一人で来る。子どもは少し離れた場所で友達とふざけている。そして、周りに聞こえないくらいの声で聞かれます。
「あの……うちの子、いつになったら勝てますか」
この質問をされるのが、20年以上やってきて、いまだに一番つらい瞬間です。
つらいのは、答えに困るからではありません。その質問の裏にあるものが、だいたい分かってしまうからです。
今日は、この質問に正直に答えます。慰めではなく、本当に思っていることを書きます。読んで気持ちよくない部分もあると思いますが、そこを飛ばしたら「正直な答え」になりません。
まず、いちばん正直なところから:分かりません
はっきり言います。いつ勝てるかは、分かりません。
「3年やれば勝てます」とも「小6までには結果が出ます」とも言えません。言う指導者がいたら、それは営業トークです。
理由は単純で、勝敗は相手がいて決まるものだからです。うちの子がどれだけ伸びても、同じ階級に、もっと伸びた子がいたら負けます。こちらでコントロールできない変数が多すぎる。
そして、もっと言いにくいことを書きます。
小学生の間、ほとんど勝てないまま終わる子もいます。 実際にいます。私は嘘をつきたくないので、これは書いておきます。
——ここで記事を閉じたくなったかもしれません。もう少しだけ読んでください。ここからが本題です。
「いつ勝てるか」は分からない。でも「いつ変わるか」なら、かなり読めます
勝敗は読めませんが、成長の順番は、驚くほど共通しています。20年分の体感として、こんな流れです。
〜3ヶ月:練習に慣れる時期
まだ技はほとんど身につきません。マットに慣れる、順番を待てる、返事ができる。ここです。この時期に技術を求めても、入りません。
〜6ヶ月:形が出はじめる
練習では技が出る。でも試合になると、全部忘れます。これは正常です。
〜1年:試合が「試合」になる
勝てなくても、逃げ回るだけの2分ではなくなる。組んで、動いて、何かを仕掛けて負ける。ここが最初の大きな山です。 親から見て変化を実感できるのも、だいたいこの辺り。
〜2年:実力どおりの結果が出はじめる
このあたりから、勝ち負けが「たまたま」ではなくなってきます。練習した子が勝つようになる。
もちろん個人差があります。 半分の期間で来る子も、倍かかる子もいます。ただ、順番が入れ替わることはまずありません。 3ヶ月目の子に2年目の結果を期待するのは、種を植えた翌週に実を探すのと同じです。
勝てない原因が、その子の努力ではないことがあります
これは、ぜひ知っておいてほしい話です。
生まれ月の問題
同じ小学2年生でも、4月生まれと3月生まれでは、ほぼ1年違います。 7〜8歳の1年は、大人の1年とは重みがまったく違う。体格も、力も、理解力も差があります。
スポーツの世界では、選考の区切りで早く生まれた子ほど有利になる現象が広く知られています。早く生まれた子が優秀なのではなく、その時点で年上なだけです。
早生まれのお子さんが低学年で勝てないのは、かなりの部分がこれです。そして、これは学年が上がるにつれて必ず薄れていきます。
早く育つ子と、あとから育つ子
体の成熟が早い子は、小学生年代では圧倒的に有利です。同じ階級でも、筋肉のつき方がまるで違う。
でも、成熟が早い=最終的に強い、ではありません。 これも、よく知られていることです。早く仕上がった子は伸びしろを先に使っており、あとから育つ子は中学以降に一気に来ることがある。
私は、小学生で表彰台に乗った子が中学でやめ、一度も勝てなかった子が高校で強くなるのを、何度も見てきました。 何度もです。
だから、小学生の勝ち負けを、その子の天井だと思わないでください。 そこは天井ではなく、まだ入口です。
正直に言うと、この質問は、お子さんの話ではないことがあります
ここが、この記事でいちばん書きにくい部分です。
「いつ勝てますか」と聞かれるとき、その質問はしばしば、別の不安に置き換わっています。
- この子には才能がないんじゃないか
- 続けさせる意味があるんだろうか
- 他の子の親に、申し訳ないような気持ちになる
- 月謝と送迎を、この先も払い続けていいのか
- 何より —— 負けて泣く姿を、これ以上見たくない
最後のこれが本音の方は、本当に多いです。そして、それはとても正常な親の感情です。 恥じることではまったくありません。
ただ、ひとつだけ。
その不安は、驚くほど子どもに伝わります。
親が結果を気にしていることを、子どもは全部分かっています。それに気づいた瞬間から、子どもは「自分のため」ではなく「親をがっかりさせないため」にマットに上がるようになります。
そうなった子は、伸びません。 例外なく、です。負けるのが怖くなり、失敗できなくなり、思い切った技を出さなくなる。安全に、消極的に、負けないように戦うようになります。そして結局、勝てません。
皮肉なことに、「早く勝ってほしい」という思いが、その子が勝つのを一番遅らせることがあります。
じゃあ、何を目標にすればいいのか
勝ち負けを目標から外せ、とは言いません。無理ですし、勝ちたいと思わない子は伸びません。
そうではなく、勝敗の手前に、自分で管理できる目標を置いてください。
- 「今日は1回はタックルに入る」
- 「1ポイントも取られない30秒を作る」
- 「泣かずに最後まで戦う」
- 「負けても相手と握手する」
これらは全部、相手が誰でも、自分の努力で達成できます。 勝敗と違って、コントロールできる。
そして達成できたら、勝敗と関係なく、その日は成功にしてください。一回戦で負けた帰り道でも、「タックル1回入ったな」で終われる。この積み重ねができる家庭の子は、結果的にいちばん長く続きます。
そして、長く続けた子が、最後に勝ちます。 これは20年見てきて、ほぼ例外がありません。才能の差より、続いたかどうかの差のほうが、はるかに大きい。
「勝てない期間」に、実は何が育っているか
一度も勝てない1年の間に、その子は何をしているか。
毎週、自分より強い相手と向き合って、逃げずにマットに上がり続けています。
これは、大人でもきついことです。会社で毎週、自分より優秀な人と一対一で勝負して、毎回負けて、それでも来週また行く。できますか。
うちの子たちは、それを7歳や8歳でやっています。
勝てない期間に育っているのは、技術ではありません。負けたあとに、もう一度立ち上がる回路です。そしてそれは、レスリングをやめたあとも一生使えます。この競技を続けさせる価値の大半は、正直に言って、そこにあると思っています。
で、結局いつ勝てるんですか
最後に、私が実際にお答えしていることを書きます。
「いつ勝てるかは、約束できません。」
「でも、半年前のこの子より強くなっているかどうかなら、今すぐ答えられます。強くなっています。それは私が保証します。」
比べる相手を変えてください。隣のマットの子ではなく、半年前のうちの子と。
その比較なら、うちの教室の子は、全員勝ち続けています。一人残らずです。
まとめ
- いつ勝てるかは誰にも分からない。断言する指導者は疑ってください
- ただし成長の順番は共通していて、1年で「試合になる」のが最初の山
- 低学年の勝敗には、生まれ月と成熟の早さが大きく効いている。本人の努力の話ではない
- 小学生の結果は、その子の天井ではない
- 親の焦りは必ず伝わり、伝わった時点で伸びが止まる
- 勝敗の手前に、自分でコントロールできる目標を置く
- 比べる相手は、半年前のその子
帰りの車で、今日どこが良かったかを一つだけ言ってあげてください。それだけで十分です。
続けていれば、必ずその日は来ます。いつかは言えませんが、来ることだけは言えます。


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