体育館の扉を開けると、まず耳に飛び込んでくるのは歓声と泣き声だ。
小学生のレスリング大会は、あちこちで子どもが泣いている。負けて泣く子、痛くて泣く子、そして——勝っているのに泣いている子。
今日書きたいのは、最後のタイプの子どもたちについてだ。試合中ずっと半泣きなのに、気づけば手を上げられている。相手に勝っているのに、顔はぐしゃぐしゃ。傍から見ると「大丈夫か?」と心配になるのに、スコアボードは着実に自分の得点を刻んでいく。
何試合か見ているうちに、そういう子たちにはいくつか共通点があることに気づいた。
1. 泣いていても、足が止まらない
これが一番わかりやすい違いだった。
「泣いて崩れる子」は、涙と一緒に動きも止まる。マットの上で固まって、コーチや親の顔を探してしまう。一方で「泣いても勝つ子」は、顔はもうぐちゃぐちゃなのに、足だけは止まらない。前に出る。組み手を切らさない。
ある試合で、開始10秒で技をかけられて大泣きした男の子がいた。誰もが「これはもう終わったな」と思う空気だった。けれど彼は泣きながら自分からタックル仕掛けて、まさかの逆転で勝ち切った。試合後、コーチに聞いたら「あの子、痛いとか悔しいとかで泣くのは早いんです。でも足だけは止めるなって、それだけ教えてます」と笑っていた。
泣くことと、あきらめることは別物なのだと、その試合で初めて実感した。
2. 泣き顔を「隠さない」
意外だったのがこれ。強い子ほど、泣き顔を隠さない。
普通、恥ずかしいとか、弱さを見せたくないとか、そういう気持ちが働きそうなものだ。実際、泣きそうになって歯を食いしばり、必死に涙をこらえようとする子もたくさんいる。でも「泣いても勝つ子」は、そこにエネルギーを使わない。泣きながら叫び、泣きながら相手を睨みつける。感情を抑え込むより、そのまま闘争心に変換しているように見えた。
ある女の子は、ポイントを取られるたびに大声で泣きながらも、その勢いのまま相手に組みついていった。まるで涙が悔しさのメーターで、メーターが振り切れるほど強くなるみたいだった。試合が終わった瞬間、けろっと泣き止んで笑っていたのも印象的だった。
3. 試合後、誰よりも早く切り替える
そして最後の共通点。勝った瞬間、驚くほど早く泣き止む。
試合中はあれだけ泣いていたのに、勝敗が決まった途端、涙の蛇口がぴたりと止まる子が多い。コーチに駆け寄って報告したり、次の対戦相手の様子を見に行ったり、もう次に気持ちが向かっている。
反対に、負けた悔しさをずっと引きずってしまう子は、次の試合でも同じように苦しむ場面が多かった。「泣いても勝つ子」は、泣くことで感情を出し切って、切り替えるスイッチを自分の中に持っているように見えた。これはたぶん、経験を重ねるうちに身についていくものなのだろう。
泣くことは、弱さの証拠じゃない
見ていて思ったのは、「泣かない子が強い」というのは大人の思い込みかもしれないということだ。
この子たちにとって涙は、弱さのサインではなく、全力で向き合っている証拠だった。怖いのに前に出る。悔しいのに足を止めない。泣きながらも、闘うことをやめない。
小学生のレスリング大会は、勝ち負け以上に、そういう小さな心の動きを見せてくれる場所だと思う。次に会場に足を運ぶことがあったら、勝った子の顔だけでなく、泣きながら組み合っている子の足元にも、ぜひ注目してみてほしい。


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