「うちの子、練習ではあんなにできるのに、試合になると別人なんです」
これ、本当によく言われます。年に何十回も聞きます。
言っている親御さんは、たいてい少し怒っています。怒っているというより、もったいなくて仕方がないという顔です。気持ちはよく分かります。私も横で見ていて、同じことを思う日があります。
練習ではあの子より投げているのに、試合ではその子が勝って帰る。理不尽に見えます。
でも20年見てきて、これにははっきりした理由が3つあります。性格でも、根性でも、才能でもありません。今日はその3つと、それぞれに家でできることを書きます。
その前に:これは悪い状態ではありません
理由の話に入る前に、一つだけ。
練習で強いということは、技術はもう入っているということです。これは大きいです。
本当に困るのは逆のほうで、練習では手を抜いていて、試合の日だけ気合いと体力で勝ってしまう子です。この子には、あとで足す中身が残っていません。
つまりお子さんは、中身はあるのに、出し方だけが分かっていない状態です。ここは何度でも言います。中身がないのとは、まったく違います。
理由1:練習の強さは「知っている相手」への強さ
一番大きいのがこれです。
毎週同じメンバーで練習していると、体が相手の癖を覚えます。この子は右から来る。この子は組んだら下がる。この子のタックルは浅い。
頭で考えているのではなく、体が勝手に反応するようになります。だから練習では速く動けるし、先に技が出ます。
ところが試合の相手は、全員が初対面です。癖のデータがゼロの状態で立つことになります。

すると何が起きるか。一瞬、判断が遅れます。この0.5秒が、そのまま先に取られる0.5秒になります。
実際、試合中0.5秒でも反応が遅れたら致命傷です。
対策は、練習相手を増やすことだけです。合同練習に行く、出稽古に行く、他のクラブの子と組む。技を増やすより、これのほうが早く効きます。
うちでも、初めての相手と組む機会を意識して作るようにしています。
理由2:練習には次があるが、試合には次がない
2つめは、頭の中の話です。
練習では、タックルに入って失敗しても、すぐ立ち上がってもう一回できます。失敗の値段が安いんです。だから思い切って入れる。
試合は違います。一度取られたら、その点は戻ってきません。失敗の値段が急に高くなります。
そうすると、子どもは無意識に「入らない」ほうを選びます。構えたまま、動かない。回ったまま、仕掛けない。
親御さんからは、こう見えます。
「何もしないまま2分終わった」
でも本人は、何もしていないのではなく、失敗しない選択を必死でしているんです。ここは誤解しないであげてください。
対策は、試合の目標を「勝つ」から「1回入る」に変えることです。
- 今日は1回タックルに入る
- 取られてもいいから、自分から先に手を出す
- 下がってもいいから、足を止めない
勝敗と関係なく達成できる目標を持たせると、失敗の値段が下がります。値段が下がれば、体は動き出します。
理由3:見ている人の数が違う
3つめは、単純ですが見落とされます。
練習を見ているのは、コーチと仲間だけです。試合会場には、親、他クラブの子、審判、知らない大人が何十人もいます。

小学生にとって、この差はかなり大きいです。
そして子どもが怖がっているのは、負けることではなく、失敗するところを見られることです。特に、親に見られながら失敗するのが一番きつい。
だから動きが小さくなります。派手に投げられる技を避けて、安全な組み方をする。その結果、何もできずに負けます。
対策として、うちでは「試合の日だけ特別扱いしない」ようにお願いしています。
前日に激励しない。当日の朝に「がんばれよ」と何度も言わない。会場で正面に座らない。行事にすればするほど、子どもは固まります。
試合のときは、いつもの練習の延長にする。これだけで動く子は本当にいます。
やると悪化すること
よかれと思ってやってしまう、逆効果のものを挙げます。
- 試合直後に技術の指摘をする(頭に入りません。むしろ次も固まります)
- 「練習ではできてたのに」と言う(本人が一番分かっています。責められたとしか残りません)
- 他の子と比べる(動きがさらに小さくなります)
- 試合を増やしすぎる(慣れる前に、負ける記憶だけが増える子がいます)
特に2つめは、つい口から出ます。私も気をつけています。
どれくらいで出せるようになるか
正直に書きます。これはすぐには直りません。
技術の問題ではなく、慣れの問題だからです。慣れは、回数と時間でしか作れません。
私の感覚では、試合に出はじめて1年から2年で、練習の動きが試合でも出るようになってくる子が多いです。もっとかかる子もいます。
ただ、ここははっきり言えます。中身がある子は、いつか必ず出ます。出し方を覚えるだけだからです。
反対に、中身がないまま気合いで勝ってきた子は、上に行くほど通用しなくなります。順番として、お子さんのほうが後で有利になります。
まとめ:出せないだけで、無いわけではない
もう一度、3つを並べます。
- 相手を知らないから、判断が0.5秒遅れる → 練習相手を増やす
- 失敗の値段が高いから、動けない → 勝敗以外の目標を持たせる
- 見られるのが怖いから、動きが小さくなる → 試合の日を特別扱いしない
この3つは、どれも時間と回数で解決していきます。技術をもう一つ増やすことでは解決しません。
「練習ではできるのに」
このセリフは、がっかりする言葉として使われがちです。でもコーチとしては、中身があることの証明として聞いています。
だから、あまり心配しないであげてください。出せるようになるまでの時間は、思っているより長いですが、出るときは、ある日ふつうに出ます。


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