試合が終わって、マットから降りてきた1年生。
一度もタックルに入れないまま、3分が過ぎました。手をパタパタさせて、近づいて、離れて、また近づいて。両親は客席で「行け! 行け!」と言い続けていた。本人は泣きそうな顔をしている。
この光景、毎年、何十回も見ます。
そして毎回、保護者の方から同じことを聞かれます。「練習ではできてるんです。なんで試合だと行かないんでしょう」
20年以上見てきて言えるのは、「勇気がないから」ではないということです。入れない子には、ほぼ例外なく技術的な原因があります。しかもその原因は、驚くほど3つに集中しています。
今日はその3つと、家でできる直し方を書きます。
大前提:低学年で入れないのは、異常ではありません
まず安心してください。
タックルは、人間の本能に逆らう動きです。
考えてみてください。目の前に相手がいて、そこへ頭から近づいて、自分から膝をつく。逃げるのでも、押すのでもなく、自分から低くなって突っ込む。こんな動作、日常生活にひとつもありません。
小学1〜2年生にとっては、「怖い」が先に来て当たり前です。3ヶ月かかる子もいれば、1年かかる子もいます。焦って怒鳴ると、確実に遅くなります。 これは断言できます。
そのうえで、原因の話に入ります。
まず、どこで止まっているかを見てください
原因を特定するコツがあります。動画を撮って、スロー再生することです。スマホで十分です。
見るのは1点だけ。
「前の足が、相手の足の間に入っているかどうか」
これだけで、原因が3つのどれかに絞れます。
- 足がまったく前に出ていない → 原因1
- 足は出たが、頭が下・お尻が高い → 原因2
- 足も姿勢も悪くないのに、相手にかわされる → 原因3
順に説明します。
原因1:遠い。単純に、届いていない
低学年の8割はこれです。
タックルに入れない子をよく見ると、そもそも入る前の距離が遠すぎる。ジャンプでもしないと届かない位置から「行け」と言われているので、体が正直に「無理だ」と判断して止まっています。
これは勇気の問題ではありません。距離を測れていないだけです。
そして厄介なことに、怖い子ほど無意識に距離を取ります。距離が遠い → 届かない → 失敗する → もっと怖くなる → さらに離れる。この悪循環が、「うちの子は行かない」の正体であることが本当に多い。
直し方:「触れる距離」を体に覚えさせる
肩タッチ
向かい合って、お互い手を前に出す。相手の肩に、自分の手が軽く触れる距離を保ったまま、前後左右に動き続ける。30秒×3セット。
このとき「触れる距離=タックルに入れる距離」です。その距離を、常にキープする感覚を先に作ります。 技術より先に、距離です。
さらに効くのが、あえて近すぎる距離から入らせる練習。組み合って至近距離から、タックルは難しいです。自分の距離(間合い)を覚えさせましょう。
原因2:沈んでいない。頭から突っ込んでいる
足は出ているのに決まらない子。ほぼこれです。
正しいタックルは、先に「沈む」→ 次に「前に出る」という順番です。膝を曲げて、腰の位置を落としてから、踏み込む。
うまくいかない子は、この順番が逆か、沈む動作が抜けています。腰が高いまま、上半身だけを前に倒す。結果、頭からダイブする形になります。
こうなると何が起きるか。
- 相手の体に頭が刺さって、そこで止まる
- 視線が床に落ちるので、相手が見えない
- 前に進む力が出ない(腰が高いと足で押せない)
- そして何より、首に負担がかかる
ちなみに、この形は本人もかなり怖い。顔から突っ込む恐怖があるので、無意識にスピードを緩めます。「思い切りが足りない」と見えるものの、体は正しく危険を回避しているだけです。
直し方:「目線」と「上下」だけを取り出す
その場で
構えたまま、上下に沈む・戻るを繰り返すだけ。20回×3セット。上半身は絶対に前に倒さない。 背筋を立てたまま、膝だけで上下する。
コツは、子どもに「エレベーター」と言うことです。「前に倒れるんじゃなくて、まっすぐ下に降りる」。この一言で直る子がかなりいます。
目線ゲーム
タックルに入りながら、コーチが立てた指の本数を答えさせる。答えられない=下を向いている、という一発で分かる方法です。低学年はゲームにすると一気に食いつきます。
原因3:相手が止まっている。準備なしで入っている
姿勢も距離も悪くないのに、毎回かわされる子。これです。
ここからは、レベルが高くなります。
動いていない相手には、タックルは入りません。 相手は正面を向いて構え、両手でこちらの頭を押さえられる状態。そこへまっすぐ入っても、当然止められます。
上手な子は、入る前に必ず何かをしています。
- 基本、内組み手
- 相手の手をはたく、掴む、押しのける(崩し)
- 一度上に入るふりをして、相手の意識を上げてから下へ (フェイント)
- 左右に動いて、相手の足の位置を崩す
- わざと押して、押し返してきた瞬間に入る (タイミング)
低学年でも、「押して、返ってきたら入る」、これひとつだけは十分覚えられます。押されたら人は無意識に押し返す。その瞬間、相手の重心は前に出て、足が止まります。そこが入り口です。
直し方:「1回さわってから入る」を絶対ルールにする
タックルの前に必ず相手の手か肩に一度触る。これをルール化するだけで、いきなり突っ込む癖が消えます。
うちの教室では低学年に「ノックしてから入る」と教えています。ドアと同じで、いきなり開けない。トントンしてから入る。この言い方が一番伝わります。
よくある誤診:実は「入れている」ことがあります
最後に、これは付け加えておきたい。
保護者の方が「タックルが入らない」と言うケースの何割かは、実際には入れているのに、そこから倒しきれていない状態です。
- 足は掴めた。でもそこで動きが止まる
- 掴んだまま、二人で固まってしまう
- 抱えたけど、相手に上から潰される
これはタックルの問題ではなく、フィニッシュの問題です。直す場所がまったく違います。ここを「もっと思い切って入れ!」と指導すると、悪化します。子どもは「入り」を頑張るしかなくなるので。
見分け方はシンプルで、相手の足に手が届いているかどうか。届いているなら、練習すべきは入りではなく、入ってからの「前に進み続ける」動作やテクニックです。
保護者の方へ:客席からの声かけについて
ひとつだけ、お願いがあります。
「行け!」は、いちばん効かない声かけです。
子どもは行きたいんです。行き方が分からないか、距離が遠いだけ。そこに「行け」と言われても、情報がひとつも増えません。増えるのはプレッシャーだけです。
代わりに、こう言ってみてください。
- 「近く!」(距離の修正 → 原因1に効く)
- 「低く!」(低く構える→ 原因2に効く)
- 「自分の組み手」(組み手争い → 原因3に効く)
短くて、具体的で、すぐ実行できる。この3語だけで、試合中の子は動けるようになります。
そして負けて帰ってきたときは、技術の話をしないでください。その日は「お疲れさま」だけで十分です。修正は次の練習から監督やコーチに任せましょう
まとめ
- 低学年がタックルに入れないのは、勇気ではなく技術の問題であることがほとんど
- 原因1:遠い(8割がこれ)→ 触れる距離を体に入れる
- 原因2:沈んでいない(頭から突っ込む)→ エレベーターの動きを分けて練習
- 原因3:準備がない(相手が止まっている)→ 「ノックしてから入る」
- 「入れない」ではなく「倒せない」の場合もある。直す場所が違うので要注意
- 客席からは「行け」ではなく、「近く」「低く」「自分の組み手」
タックルが一本決まった日、子どもの顔は本当に変わります。そこまでは、地味な練習の積み重ねです。焦らずいきましょう。


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