練習に出る時間。玄関で、子どもが靴を履かずに座り込んでいます。
「今日、行きたくない」
親の頭には、二つの選択肢が浮かびます。なんとか連れて行くか。今日は休ませるか。
どちらを選んでも、あとで「あれでよかったのかな」と思う。そういう日だと思います。
20年、保護者の方からこの相談を受けてきました。そして、両方の選択をした家庭の「その後」を見てきました。今日は、無理に行かせた日と、休ませた日に、それぞれ何が起きるのかを正直に書きます。
先に結論:どちらが正解、ではありません
最初に言っておきます。
「嫌がっても行かせるべき」も「嫌なら休ませるべき」も、どちらも半分しか当たっていません。
行かせてよかった日もあれば、行かせないほうがよかった日もある。休ませて正解だった日もあれば、休ませたことで次が苦しくなった日もある。
違いを生むのは、どちらを選んだかではありませんでした。それは後半で書きます。まずは、それぞれの日に起きることからです。
無理に行かせた日に起きること
いい方向に転ぶとき
意外に思われるかもしれませんが、体育館に着いてしまえば、普通に練習する子がかなり多いです。
玄関で泣いていた子が、準備運動が始まる頃には友だちとふざけている。一番しんどいのは練習ではなく、家を出るまでの数分だった、ということは本当によくあります。

帰りの車で「今日たのしかった」と言って、親御さんが拍子抜けする。そういう日です。
悪い方向に転ぶとき
一方で、泣きながら連れてこられた日は、練習の中身がほとんど残りません。
マットには立っていても、頭はそこにない。技を教えても入らない。本人にとっては「つらい時間をやり過ごした日」になります。
そしてこれが何度も続くと、子どもの中で「レスリング=嫌なことを我慢する場所」という結びつきができてしまいます。一度できると、これを外すのはかなり時間がかかります。
休ませた日に起きること
いい方向に転ぶとき
休ませた翌回、けろっとした顔で来る子も、たくさんいます。
疲れていた、寝不足だった、学校で嫌なことがあった。一回休んで体と気持ちが戻れば、それで終わる話だった、というケースです。
「休ませて大丈夫だったのかな」と心配していた親御さんが、次の練習で普通にはしゃいでいる我が子を見て、ほっとされます。
悪い方向に転ぶとき
ただ、気をつけたいこともあります。
「行きたくないと言えば、休める」と子どもが覚えると、次の「行きたくない」が早く来ます。そして間隔がだんだん短くなります。
休みが続くと、今度は「久しぶりに行くのが気まずい」という別の壁が生まれます。練習が嫌なのではなく、休んだあとに顔を出すのが嫌、という状態です。
分かれ道は「理由を聞いたかどうか」でした
ここまで読んで、結局どっちなんだと思われたかもしれません。
20年見てきて、その後がうまくいった家庭に共通していたのは、行かせたか休ませたかではなく、「なぜ嫌なのか」を一度聞いていたことでした。
理由を聞いたうえで行かせた子は、「分かってもらえた」と感じて出かけます。理由を聞いたうえで休ませた子は、「ちゃんと理由があったから休めた」と受け取ります。
逆に、理由を聞かずに引っぱっていった日も、理由を聞かずに休ませた日も、どちらも子どもの中に何も残りません。

聞き方は、短くて構いません。
「疲れてる? 誰かと何かあった? 体どこか痛い?」
答えが出なくても、聞かれたことは残ります。
休ませていい日
理由を聞いて、次に当てはまるなら、迷わず休ませてください。
- 体調が悪い(熱、頭痛、だるさ、食欲がない)
- ケガや痛みがある
- 練習で、誰かとの間に嫌なことがあった
- 極端な寝不足、学校行事の翌日などで明らかに疲れている
特に3つめは、やる気の問題として扱ってはいけません。「行きたくない」ではなく「助けて」の可能性があります。その場合は、休ませたうえでコーチに一報ください。
背中を押していい日
逆に、次のような理由なら、少しだけ背中を押してもいい日だと思います。
- なんとなく(理由を聞いても出てこない)
- 雨で出かけるのが面倒
- ゲームや動画の続きが気になる
- 行く直前まで遊んでいて、切り替えられない
ただし、押し方には気をつけてください。「行きなさい」ではなく「行くだけ行ってみよう、きつかったら見学でいい」くらいがちょうどいいです。
逃げ道があると分かった子は、たいてい見学では終わらずに、マットに上がります。
どちらを選んでも、やってはいけないこと
最後に、行かせた日にも休ませた日にも共通する、避けたいことです。
- 行かせた日の帰り道に、「ほら、行ってよかったでしょ」と言い聞かせる(本人の中では「押し切られた記憶」が強くなります)
- 休ませた日に、ずっと気まずい空気を出す(休んだことを罰にすると、次は理由を言わなくなります)
- 「〇〇くんは休まず来てるのに」と比べる
- 行くか休むかを、その場の親の機嫌で決める
特に最後は、子どもがよく見ています。同じ理由なのに、日によって扱いが変わると、子どもは理由を言うこと自体をやめます。
まとめ:選択より、そのあとの一言
もう一度整理します。
- 無理に行かせた日は、着いたら普通に練習できることが多い。ただし泣きながらが続くと、レスリングが「我慢の場所」になる
- 休ませた日は、翌回けろっと来ることが多い。ただし「言えば休める」を覚えると、次の嫌が早く来る
- その後を分けるのは、選択そのものではなく、理由を一度聞いたかどうか
- 体調・ケガ・人間関係なら休ませる。なんとなく・面倒なら、逃げ道をつけて背中を押す
玄関で座り込んでいる我が子を前にしたら、どちらを選ぶかを急がなくて大丈夫です。
まず一回、理由を聞いてあげてください。行くか休むかは、そのあとで決めても遅くありません。


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