やっぱ最後は、パワーなんよなっ

ちびっ子レスリング

これは、自分の恩師の言葉です。

個人的には、「レスリングは力じゃない。技術だ」

子どもたちには、いつもそう教えています。

力任せに引っ張るな。相手の動きを感じろ。足を使え。崩してから入れ。腕だけで投げようとするな。

どれも間違っていません。むしろ、レスリングを始めたばかりの子ほど、力に頼らず正しい動きを覚えることが大切です。

それでも、20年ちびっこレスリングを見てきて、試合の最後に何度も思わされることがあります。

やっぱ最後は、パワーなんよなっ。

今日は、少し身もふたもない話をします。

同じくらい上手なら、強いほうが勝つ

技術があれば、小さな子が大きな子に勝つことはあります。

相手の力が入る方向を利用する。低いタックルに入る。素早く後ろへ回る。力の差を技術とスピードでひっくり返す。それがレスリングの面白さです。

けれど、試合が上のレベルへ進むほど、相手も技術を持っています。

こちらがタックルを知っていれば、相手もタックルを知っている。こちらが崩し方を覚えていれば、相手も守り方を覚えている。

技術が同じくらいになったとき、最後に差になるのは何か。

押し切る力。踏ん張る力。相手を持ち上げる力。苦しい体勢から戻る力。そして、試合の終盤まで動き続ける力です。

つまり、パワーです。

「力に頼るな」と「力はいらない」は違う

ここは、子どもにも保護者にも誤解してほしくないところです。

力に頼るなというのは、力がいらないという意味ではありません。

技術を覚えず、最初から力任せにレスリングをすると、同じくらい強い相手には通用しなくなります。体格で勝てていた子が、学年が上がった途端に勝てなくなるのは珍しくありません。

反対に、技術がきれいでも、組んだ瞬間に姿勢を崩され、タックルへ入っても押し返されるようでは、その技術を試合で出せません。

技術は「どう動くか」。

パワーは「覚えた動きを本当にやり切る力」。

どちらか一つではなく、両方が必要です。

パワーは腕の太さだけではない

「パワー」と聞くと、重いバーベルを持ち上げる姿を思い浮かべるかもしれません。

しかし、ちびっこレスリングで必要なパワーは、それだけではありません。

  • 正しい姿勢を崩さない脚と体幹の力
  • 相手と組み続ける握る力
  • タックルで前へ進む力
  • 倒されそうなときに耐える力
  • 一度止められても、もう一度動く力

こうした力が全部合わさって、試合で使えるパワーになります。

筋肉が大きい子が、必ず強いわけではありません。自分の体を思いどおりに動かせる子、最後まで姿勢を保てる子のほうが、マットの上では強いこともあります。

小学生に大人と同じ筋トレは必要ない

では、小学生のうちから重い器具を使った筋トレをさせればいいのか。

私は、そうは思いません。

マットの上でクマ歩きや手押し車をする小学生たち

特に低学年のうちは、腕立て伏せ、スクワット、クマ歩き、手押し車、綱引き、マット運動など、自分の体重を使った運動で十分です。

遊びの中で走る。跳ぶ。登る。ぶら下がる。押す。引く。転がる。

こうした動きをたくさん経験した子は、自分の体を扱うのが上手になります。それが、将来のパワーの土台になります。

大切なのは、急いで見た目の筋肉をつけることではありません。正しい姿勢と動きを覚えながら、少しずつ強い体をつくることです。

練習で本当に強くなる子

練習を見ていると、力の強い子ほど無意識に力の弱い相手を選ぶことがあります。そのほうが技をかけやすく、気持ちよく勝てるからです。

でも、それだけでは伸びません。

自分より強い相手と組むと、簡単には押せません。持ち上がりません。いつもの技も止められます。

押し返されながら足で踏ん張っている小さい子

そこで初めて、「この角度では力が伝わらない」「足が止まっている」「腰が高い」と気づきます。

強い相手との練習は、ただ力をつけるだけではありません。自分の力をどこで、どう使えばいいのかを教えてくれます。

負けたり、押し返されたりしている子を見ると、親御さんは心配になるかもしれません。しかし、その時間は決して無駄ではありません。

うまくいかない相手と組んでいるときこそ、本当の技術とパワーが育っています。

最後の30秒で出るもの

試合の残り30秒。

点差はわずか。息は上がり、腕にも力が入らない。コーチの声は聞こえていても、頭がうまく回らない。

汗だくで足を止めず、相手の脚をつかみにいく小学生

そんな場面では、新しい技は出ません。

出るのは、何度も練習した動きと、苦しいところからもう一歩前へ出る力です。

そこで相手の足をつかみ切れるか。場外へ逃がさず押し戻せるか。最後まで姿勢を崩さず耐えられるか。

技術を勝利に変えるためには、最後にそれをやり切るパワーが要ります。

だから私は、子どもたちに「力任せにやるな」と言いながら、同時に「もっと強くなれ」とも思っています。

一見、矛盾しているようですが、矛盾していません。

技術を覚える。そして、その技術を最後まで使える体をつくる。

それがレスリングです。

まとめ

レスリングは、力だけで勝てる競技ではありません。

でも、力がなくても勝てる競技ではありません。

技術がパワーの使い道を決め、パワーが技術を本物にします。

すぐに勝てなくても大丈夫です。今は押し負けていても、正しい動きを覚え、よく食べ、よく眠り、練習を続けていれば、子どもの体は少しずつ強くなります。

焦って筋肉をつける必要はありません。今日より少し低い姿勢で構えられた。昨日より一回多く腕立て伏せができた。強い相手に一歩だけ押し返せた。

その積み重ねが、いつか試合の最後の30秒で子どもを助けます。

技術はもちろん大事。

気持ちも、経験も、作戦も大事。

それでも、全部が同じくらいになった最後の最後は――

やっぱ最後は、パワーなんよなっ。

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