攻めなきゃ勝てないよ

ちびっ子レスリング

試合中、マットの外からいちばん多く飛んでいる声は、たぶんこれです。

「攻めろ!」

私も言います。20年言い続けています。

でも最近、はっきり思うようになりました。「攻めろ」だけでは、子どもには何も伝わっていません。

言われた子は、たいてい困った顔で相手を見ます。攻めたくないわけではないんです。どうすることが「攻める」なのかが、分かっていないだけです。

今日は、この一言の中身を分解してみます。

そもそも、待っていて勝てる競技ではありません

まずここからです。

レスリングには、守り切って勝つという形がありません。相手が勝手に転んでくれることもありません。

点を取らないと、勝てない仕組みになっています。

サッカーなら、守りきって0対0でPK、という展開もあります。レスリングにはそれがない。じっとしていれば、じっとしていたぶんだけ、何も起きずに時間が減っていきます。

そして時間が減った状態で、相手が一点でもとると、そこで決まります。

だから「攻めなきゃ勝てない」は、根性論ではなく、競技の構造の話です。

「攻める」は「突っ込む」ではありません

ここが一番の誤解です。

「攻めろ」と言われた子が最初にやるのは、たいてい頭から突っ込むことです。そして返されて、点を取られます。

頭から突っ込んで、相手に抱えられてしまった小学生

その結果、こうなります。

「攻めたら負けた」→「攻めないほうがいい」

子どもの中で、この学習が起きてしまいます。これが一番まずいです。

攻めるというのは、突っ込むことではありません。私がその言葉で伝えたいのは、こういうことです。

  • 自分から手を出して、相手に触る
  • 相手が動く前に、こちらが先に動く
  • 一歩前に出て、相手の距離を崩す

タックルに入り切らなくても、これは全部「攻めている」です。

待って取られた点と、攻めて取られた点は、中身が違います

スコアボードの上では、どちらも同じ1点です。

でも、意味はまったく違います。

待っていて取られた点は、そこから何も残りません。次に何を直せばいいのかも分かりません。

攻めて取られた点には、必ず原因があります。距離が遠かった、頭が下がっていた、足が止まっていた。次に直せる形で残ります。

だから私は、攻めて取られた失点を叱りません。叱るのは、何もしないまま時間が過ぎた2分のほうです。

攻めている子は、負けても次に残ります

これは大会に何十回も行って、はっきりそう思います。

負け方には二種類あります。

一つは、何もできずに終わる負け。もう一つは、何度も仕掛けて、そのたびに返されて終わる負け。

同じ0対10でも、後者の子は次の試合で変わっています。前者の子は、何回試合に出ても同じ2分を繰り返します。

会場では、どちらも「負けた子」として帰ります。親御さんから見ても、結果は同じに見えると思います。

でも中身は、まったく違うものが起きています。

家で言うなら、この一言で足ります

「攻めろ」の代わりに、もっと具体的な言い方があります。

「1回でいいから、先に手を出しな」

試合開始直後、自分から先に手を伸ばして相手に触れにいく小学生

これだけです。

「勝ってこい」でも「攻めろ」でもなく、1回、先に触る。これなら子どもにも何をすればいいか分かりますし、勝敗と関係なく達成できます。

そして、これができた日は褒めてあげてください。負けていてもです。

  • 「先に手が出てたね」
  • 「今日は自分から行ったね」

こう言われた子は、次も先に手を出します。逆に、勝った日だけ褒められる子は、安全な戦い方を覚えます。

コーチが本当に見ているところ

正直に書きます。

小学生の試合で、私が一番見ているのは勝敗ではありません。開始10秒で、どちらが先に手を出したかです。

先に出た子は、その試合の主導権を握ります。仮に取られても、次の30秒でまた自分から行きます。

先に出られなかった子は、たいてい最後まで受け身のまま終わります。この10秒が、2分全部を決めていることが本当に多いです。

だから練習でも、技より先にここを言います。組む前に、まず自分から手を出す。技術はそのあとの話です。

それでも、すぐには攻められません

最後に、これも書いておきます。

言われてすぐ攻められるようになる子は、あまりいません。

試合では失敗の代償が大きいので、体が勝手に守りに入ります。頭で分かっていても動きません。それは怖がりだからではなく、普通の反応です。

(このあたりは「練習では強いのに試合で勝てない子」の記事に詳しく書きました)

だから、責めないであげてください。必要なのは、先に手を出して失敗しても大丈夫だった、という経験の回数だけです。

一回できた。次はもう一回できた。そうやって増えていきます。

まとめ

「攻めなきゃ勝てないよ」

私が言い続けている言葉ですが、中身はこういうことです。

  • 待っていて勝てる競技ではない(点を取らないと勝てない構造)
  • 攻める=突っ込む、ではない(先に手を出す、それで十分)
  • 攻めて取られた点は、次に直せる(待って取られた点は何も残らない)
  • 家で言うなら「1回でいいから先に手を出しな」

そして、それができた日は、勝ち負けと関係なく褒めてあげてください。

先に手が出るようになった子は、そのうち勝ちます。順番はいつもそっちです。

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